■67年度版映画レビュー
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67年度の映画レビューです。
あらすじ、原作との相違や、感想を書いていきます。

まず、明らかに昭和時代でした。
2人で暮らす家も、海の近くの普通の一軒家でした。
着物も桃割れも、一度も出てきませんでしたし。

安田道代のナオミは、プロポーションも顔も
ぴったりで、ただちょっと声が大人びているなぁ、
とだけ思いました。大胆で美しかったです。
出会った時は18で、実家は近くの居酒屋(夜はそこを
手伝っている)という設定でした。
「動物電気を発するような眼」が、一番印象的でしたね。

小沢昭一の譲治は、少しオヤジかなあ…と。
ただナオミを叱る時や甘えさせる時には、それなりの
雰囲気があって、それが逆に良かったです。
ただ、顔も悪くなくて自信もあり、
ポリシーがしっかりしている…というところは無く、
情けなさが強調されていましたね。何だか、
ちょっと高橋克実さんに似ていました(笑)

最初は、譲治の勤める工場のシーンから始まります。
上司から趣味を聞かれ「雑種のネコをかわいがっている」
と答えます。この時点でもうナオミは譲治と暮らしているようです。

家に帰り、隠れているナオミを見つけ出し、
鬼ごっこになり、水着のナオミの写真を撮って、
そこでオープニングテロップが入りました。

そして、ナオミの成長日記がめくられます。
白黒写真のウエイトレスのナオミ、実家の様子などが
カシャカシャと入れ替わり、
「ナオミは18歳のウエイトレスで…気に入ったので
家に引き取り、世話をしている。そろそろ1年になる」
という譲治のナレーションが入り、風呂場のシーンに
替わります。
映画、散歩、一緒に暮らそうと言うカフェエでのシーンは
完全にカットされています。悲しいなあ。

風呂場でナオミを洗い、ここで「私は譲治さんの本当の
妻になりたい」と言い、まあ…契ってしまいます。
隣の医者夫婦がそれを覗いていました。

それで、「夫婦になったので、本当に籍を入れたい」と
ナオミの両親に申し出ます。譲治が一年も
手を出していなかったことに驚きながらも、両親は
結婚を承諾。2人の結婚生活が始まります。
出張により、譲治がナオミの大切さを認識して、
迎えにいき、ナオミの成長を実感するシーンも削除ですね。

しかし、ナオミの成長日記2登場。
海水浴のシーンもここで写真で紹介。しかしあの水泳着ではなく
派手なビキニ。脚や胸の繊細な描写を、映像で見たかったと思います。
譲治はわがままで飽きっぽいことに気づき始めます。
20万もしたピアノを足蹴にするナオミ、
服を色々と替えるナオミなどが映ります。
譲治はナオミの服のセンスを「派手でけばけばしく
贅沢だ」と評します。たしかに…ケバい。
手に負えなくなってきました。
英語も音楽も放り出しているようです。
庭で水着にならせてサンオイルを塗っている途中それを
思い出し、英語の本を読ませます。しかしナオミは
それをびりびりに破き、蹴り飛ばし、動物電気の眼で
にらみます。しかし譲治は謝れと強制し、ナオミを
謝らせます。直後ナオミは豹変し、イタリア語を
習いたいと言い出します。

浜田登場シーン。
原作では、玄関先でしゃべっているだけでしたが、
こちらでは背中を掻いてやっています。
譲治とは挨拶しませんでした。
譲治はナオミを問いただしますが、うまくはぐらかされました。

ダンスパーティのドレスのシーン。
ダンス用ドレスをしつらえ(5万円、譲治の月給は7万)
借金の多重債務を要求し、トランプで勝ったら首飾りを買えといって、
服を脱いで誘惑し、だめだといわれると、
「私に不自由させないといったじゃない」とすね、泣き、なだめられます。
このあたり、原作のエピソードをくっつけ詰め込んだと言う感じで、
しかも台詞はずいぶんと現代的に変更されています。

譲治の実家でのシーン。
小説には直接実家で過ごす場面はありませんでしたが
映画では母と2人縁側でくつろいでいます。
「ナオミは母さんの替わりだ、母さんのような立派な女にするためだから」
といって、金の無心。母には「お前は嘘つかない子だったのにねえ」と
言われてしまいます。

そして、ダンスのシーン。
イタリア語教室で出会った人たちとダンスパーティを開き、
教室で出会ったのが浜田と熊谷という設定になっています。
浜田役は田村正和さん。若く素敵で、少し気弱な青年らしさが良く出ています。
ちょっとウエンツ瑛士に似ているかも。
熊谷役もシブイです。プレイボーイぶりがはまっています。
何人か外国人も登場しましたが、ここはやはりあのロシア貴族夫人の
教室でなければ、譲治の外国人・白肌へのフェチズムは強調されないのでは
ないでしょうか。時代が違うせいか、メアリ・ピクフォードに似ている云々
の話も出ていません。
飲み物もレモンスカッシュからウイスキーコークへと変更。
社交ダンスというより、ディスコのよう。譲治とナオミも踊りますが、
「年寄りは嫌ね」と言われ、ナオミは熊谷のほうへ行ってしまいます。
譲治は、ナオミは酒やダンスをどこで覚えたのかということばかり
考えています。

ダンスが終わった後のシーン。
鎌倉に行って、熊谷たちと通じるシーンもカット。
ナオミたちが乗った熊谷の車が故障し、譲治の家に
浜田と熊谷が泊まることになる、このシーンで
補完するようです。鎌倉で水泳をするシーンは写真でしたし
仕方ないのかも。
男3人川の字に寝て、枕の辺りにナオミが寝転がり、譲治と浜田に
交互に脚を向け、熊谷は脚の間に頭を乗せています。
熊谷とナオミのキスはここにあたりますが、浜田も譲治も
気にしていませんでした。密通の証拠にはしないのでしょうか。
そうして一夜が明け、ナオミは2人はただの友達であることを強調します。
朝食に譲治はトースターで焼いたパンを。昭和らしい。

工場で、譲治はナオミが数多の男と遊んでいることを、同僚から
聞かされます。(私は、譲治の勤務先は、技師と言えどしょっちゅうスーツの
オフィスを想像していたのですが、映画では常に屋外・ヘルメット・作業服です)
原作ではナオミのあだ名について「とても言えないひどい名」
としていますが、映画では小説巻末の注釈の推測どおり「共同便所」と
言ってしまっています。

帰ってナオミを問いただしますが、私と同僚とどっちを信じるのかと問い返され、
詰まってしまいます。
そこで「信じるなら馬になってよ」と言われ、馬乗りごっこをします。
脚で締め付けられ、スリッパで叩かれ…譲治は本当に平気なのか?
疲れて眠ってしまったナオミは、つい寝言で、密通している時のことを
つぶやいてしまいます。それを聞いた譲治は怒り、ナオミの服をトランクに詰め、
隣の医者のところへ行って「うちを覗いてることばらされたくなかったら
この荷物を預かってナオミを見張れ」と言い、電話やインターホンを遮断し、
次の朝会社へ行きます。
ナオミはやられたと悔しがりますが、ちょうどやってきた酒屋に、
浜田の番号を教え、電話してくれと頼みます。

「若い男がやってきた」と見張っていた医者から連絡を受け、
急いで帰って来た譲治は、自分たちのベッドで寝ている浜田を発見し、
フォークをもって襲い掛かります。そこで浜田は謝り、自分は騙されていた、
自分だけじゃない、ナオミは皆と関係して回っている、しかし自分はナオミを
愛している、と語ります。当のナオミは浜田の服を着て、熊谷のところへ行った、
ナオミは本当は熊谷が好きだが、熊谷のほうは遊びだ、とも伝えます。
譲治は自分の服を投げてよこし、これを来て帰れといい、ナオミ達が
行ったと言う海へ行きます。

そこで2人は関係していました。原作で、会社へいくふりをして尾けて行ったら
浮気していた、というのとは違いますね。譲治は怒りのあまり、2人の乗ってきた
ボートに乗って、岸へ返してしまいます。

泳いで帰ってきたナオミ。「私だって人間よ、閉じ込められるのはもういや」と
主張します。こういうところが、原作の人形的・物語的なナオミより、人間くさい
ですね。ところがどっちもナオミらしい…不思議です。
その後の「謝らないなら出て行け!」のビンタやら突き飛ばしたりやら、
ナオミの許しを乞うシーンやらは強烈でしたね。
原作より少しモタモタしていましたが、やはりナオミは出て行きました。

最初に熊谷を呼んだナオミですが、熊谷にも愛想をつかされ、
途中で車を降ろされます。
工場で上司に不真面目を指摘され、ナオミとは別れたので大丈夫と告げる譲治。
しかしナオミの実家に行って行方を聞いたり、ナオミの写真をばらまき眺め、
ナオミの残した服を背中にのせて馬になって歩き回ってみたり…
そんな時に母が重体という電話が入ります。

原作ではなかった母の亡くなるシーン。
「母さんみたいに育てようと思ったら、あんなになってしまったんだ、悪いのは
母さんだ」などど八つ当たりし、直後母が亡くなり、ひどく後悔します。

葬式を終え、家に戻ってきた譲治。いつかの服を返しに来た浜田に会い、
家にあげ、ナオミのことを語り合います。「ナオミさんは旨くて強い酒のようだ、
どんなになってもやめられない」と浜田は言います。自分の育てた魅力を
分かってくれていたことに感激し、意気投合します。

その夜、ナオミの写真をベッドにまきちらして譲治が寝ていると、ナオミがやってきます。
合鍵をその時は置いていきますが、まだ隠し持っていた鍵で何度も家に入ってきました。

そして、譲治の行動はどんどんエスカレートし、撮った写真をなぞりキスし、物を投げ、
頭を壁や机に叫びながらゴンゴンぶつけ…文字で見るより怖さと狂気がありました。
狂うってこんな感じなんだろうな…それでも、家を訪れた医者に「あんたみたいな
デバガメには分かんないだろうが、体だけじゃなくて俺はナオミを愛しているんだ」
と言う…ナオミのことは体だけだと思っていた、原作終盤の譲治と、変わってきています。

ついにクライマックスの、わき剃りのシーン…ものすごいです。
取っ組み合って、蹴り飛ばして、叫びまくり、髪を掴み、要求し、馬にならせて
歩き回る…映像ならではの迫力と緊迫。

しかし…ラストのナオミの言葉、泣きながら「私にだってあなたしかいないんだから」…
これは…これまでの「痴人加減」を一気に覆して、純愛路線に行こうとしているとしか
思えません…
ここが個人的に非常に残念でした。

そして、譲治の撮ったナオミの写真のアップとともに「完」の文字。

ナオミは非常に美しく、譲治は非常にマゾヒスティックかつ男くさくて
良かったのですが、時代を合わせて、もっと長くしても良かったように思います。
あの8年間を語るのに、92分というのは忍びないでしょう。
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